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カカシはイルカの隣に座ってそっとイルカの頬を撫でた。 「あの時摘発の任務は大詰めで、どんな些細なミスも許されない状況だったそうです。で、木の葉の存在をオークション側に絶対に悟られないために必要最低限の連絡以外はしてはいけないことになってたんです。些細なほころびでも出ようものなら本末転倒になりますからね。まだ摘発まで比較的余裕のある時に、紅は無理にでもイルカ先生を自然な風に里に帰らせようとしていたみたいだけど、俺を捜すってことの方が強くて紅の暗示も跳ね返しちゃったんだってね。それ聞いた時、俺はすごく嬉しかったよ。」 なるほど、あの時に見た夢は帰巣本能を呼び起こすものだったのか、だが、それは逆効果だった。なぜならイルカの帰る場所はカカシの元なのだから。 「ねえ、本当は怖かったんだ。鳥になった時、とても怖かった。鳥となっても翼は生えずに地べたを這うだけだった。それでも里に帰らなくてはとそれだけを必死になってもがいて、でも里は全然遠くて、段々本当に鳥の思考になっていって、エサを取らなくてはとか、外敵から巣を守るためにはなんてことが頭の中を支配していきそうになっていくんだ。そんな時にイルカ先生が俺を拾ってくれて、俺は、俺は泣きそうだったよ。嬉しくて、愛しくて、絶対に人に戻って再びあなたに会うのだと誓ったよ。でもすぐに鳥としての思考に支配されて、次に人としての思考になったのは火影様が変化を解いてくれた後だった。それでやっとリハビリも終わってさあ迎えに行こうかと思って矢先にあなたの気配がするし、血臭もするし、知った嫌な気配もするしで、あなたが傷つけられた姿を見た時、相手を殺すことしか考えられなかった。ふがいないばっかりに逃がしちゃったけど、でも、イルカ先生がこうして生きてくれて、本当に良かった。」 カカシはぎゅっとイルカの手を握る手に力を込めた。 「俺は、最初カカシさんの腕がガラスケースに入っているのを見て信じられなくて、じっとしていられなくて、逃げたんです。あなたのいない里から。だからふがいないとか、そんなことは言わないでください。自己嫌悪になったのは俺も同じなんです。任務だと知らずにオークションに近寄り、忠告も無視して探し続けて、追跡されていたことにも気付かずに、あなたの腕をもう少しで奪われてしまう所だった。あなたの大切な腕を。」 イルカはそっとカカシの腕に自分の腕を絡めた。そっともう片方の手でカカシの腕を優しく撫でる。くすぐったそうに身をよじるカカシにイルカは笑みを浮かべた。 「リハビリはどうですか?ちゃんと動きますか?」 「俺を誰だと思ってるんですか、順調ですよ。心配ですか?」 問われてイルカは、当たり前ですよ、と口を尖らせた。 「じゃあ少し回復具合を見せてあげますね。」 カカシの言葉にイルカは疑問符を浮かべながらも頷いた。 「以前から聞こうと思ってたんですが、あの巨額の貯金は一体なんのお金だったんですか?まさか裏金でした、なんてことはないんでしょ?」 ベッドの上で微睡みながらも聞いてきたイルカにカカシは苦笑した。実は他にも裏金は所持しているがそれは誰にも分からないように隠してあるので誰の目にも見えないはずだ。 「あれはね、以前任務で大金持ちの老人の警護をまかされていた時に自分の寿命はもう少しで尽きるが遺産相続で親族の骨肉の争いが起こるだろうからってたまたま警護にあたっていた俺にぽんとくれたんですよ。」 「ちょっと、それって任務の規約違反ですよ。」 「ええ、でもどうしてもって言うし、老人はなかなかいい人でして、このままだと親族の中から死人がでるだろうからってそれはそれは嘆いてましたから、仕方なく。」 「でも一個人で所有できるはずのない大金でしたよ?そのご老人、そんなに大金持ちだったんですか?」 「イルカさん、この世界には一国の国家予算よりも遙かにでかいお金を持っている金持ちなんてわんさといるんですよ。」 「でも、オークション会場で、ここまでの巨額が動いたのは初めてだって聞きましたよ。あの額はさすがにでかかったと見るべきでしょう。」 「なるほど、オークションで使ったから気になってたんですね。」 今まで聞く機会などいくらでもあったのにどうして今になって聞いてくるのかと不思議に思っていたカカシは納得した 「一つ忠告すればね、イルカさん。大抵そういった金持ちはオークションなんてちゃちな場所には出入りしないんです。向こうからバイヤーが出向くもんなんです。」 イルカはなるほど、と頷いた。 「でも、ほとんど貯金使い果たしてしまいましたから、貧乏になってしまいましたね、俺たち。」 「どうせあの金はただでもらったもんですし、なくなっても別に困りはしませんよ。俺の給料とイルカさんの給料で十分暮らしていけるんですから貧乏なんかじゃないです。お金、足りませんか?」 「十分に足りてますし、俺だって男の甲斐性は持ってるつもりなんですからカカシさん1人を養うくらいはできますよ。」 「それは頼もしいですね。」 「ええ、頼もしいでしょ。だから、今度からはどんなことになっても、秘密にしないでください、おね、がい。」 イルカはうとうととしながら呟くように言った。まだ体調も万全ではないのにカカシに付き合い、疲れてしまったのだろう。だが、疲れていてもこうして愛しい言葉をくれる。 「あなたのために、俺は何度だって生き返りますよ。不死鳥と言って下さい。」 カカシはくすくすと笑いながら、イルカの隣に寝転がった。 おわり |
はいっ、と、言うわけでおつかれさまでした!!
って言うか暗いですね、ええ、ほんと、今の季節は夏なんだからもっとはじけろっ!てな具合ですが、ま、まあ、気分です!!
あまりの暗さに書いてる途中に明るい短編を一本書ききったくらい逃避してました!(笑